ストレッチほど、地位の低いトレーニングもない。筋トレの前座か、体育の準備運動の記憶のまま止まっている人が多い。かくいう私も、長らく「柔軟性の話」だと思っていた。ところが公的な解説を読み直すと、ストレッチには別の顔が書かれている。夜の部の顔——心身をゆるめて、休む態勢に入るための道具としての顔だ。
公的解説に「リラクセーション」と明記されている
厚生労働省のe-ヘルスネットは「ストレッチングの効果」という解説で、柔軟性を高める働きに加えて、近年はリラクセーションの働きが明らかになってきたと記載している。 ゆっくり伸ばしている間に心拍が落ち着き、心身がゆるむ方向の変化が観察されるという趣旨だ。ポイントは、この顔が出てくるのは静的ストレッチ——反動をつけず、痛くない範囲でじっくり伸ばして保つやり方——だということ。息を止めて限界まで伸ばす昭和の柔軟体操は、むしろ逆の顔を呼び出してしまう。
同じe-ヘルスネットの運動と睡眠の解説には、就寝直前の激しい運動は体を興奮させるため避け、運動は就寝の2〜4時間前までに、という整理もある。夜にできる運動の枠は案外狭い。その狭い枠に唯一すっぽり収まるのが、強度の低い静的ストレッチというわけだ。
使い分けも覚えておきたい。体を動かしながら反動やリズムを使って可動域を広げていく動的ストレッチは、これから動くための準備に向くやり方で、出番は朝や運動前。じっと保つ静的ストレッチは、動き終えた体を店じまいさせる側に向く。同じ「ストレッチ」の名前でも、アクセルとブレーキほど役割が違う。夜に選ぶべきは、当然ブレーキの方になる。
「伸ばす」より「抜く」がうまい人になる
夜のストレッチの主役は、実は筋肉ではなく力の抜き方だと私は思っている。頑張り屋の体は、夜になっても肩と顎と腰に昼の力が残っている。静的ストレッチで20〜30秒じっと保つ時間は、その残業中の筋肉に「終業」を伝える時間だ。伸ばす痛気持ちよさを追うのではなく、息を吐きながら力が抜けていくのを観察する。ため息呼吸の記事で書いた「長く吐く」と組み合わせると、これはほとんど横になる前の儀式になる。
うまくできない日があってもいい。柔軟性は測れるが、脱力は成績にならない。成績にならないことを一日の最後に置く——数字を追いかけて生きている人間には、それ自体が案外効く。
布団の横で5分、この3つだけ
- ふくらはぎと太もも裏を、各30秒×左右。 立ちっぱなし・座りっぱなしの一日の主犯格から伸ばす
- 胸と首を、各30秒。 デスクワークで縮んでいる側を開く。肩甲骨を軽く寄せて胸を開き、首はゆっくり横に倒す
- すべて「痛気持ちいい」の手前で止める。 反動をつけない、息を止めない、頑張らない。この3つが夜の部のルールだ
痛みがある部位は伸ばさないこと。しびれや強い痛みが出る場合は中止して、医療機関に相談を。


