昨日書いたHYROXのような競技に人が集まる一方で、世界の持久系トレーニングの現場では逆方向の言葉が流行っている。「ゾーン2」——息が上がらない、会話ができるくらいのゆっくりしたペースで走ること。追い込んでこそ練習だと思ってきた人ほど、この考え方は効く。
時計はいらない。「会話ができるか」で決まる
心拍数を強度の物差しにする「心拍ゾーン」の考え方で、ゾーン2はおおむね最大心拍数の6〜7割。「一日中でも続けられるペース」と表現される強度帯だ。判定に時計はいらない。呼吸を乱さずに会話ができるかどうか——いわゆるトークテストで足りる。話せるならゾーン2、息が切れて言葉が途切れるなら、それはもう別の練習だ。
もともとはマラソンや自転車ロードレースなど持久系プロの土台づくりの方法論だが、ここ数年で一般のランナーやジム層に一気に広まった。背景にはウェアラブルの普及がある。心拍数が手首で見えるようになり、「なんとなくきつめ」で走っていた人たちが、自分の強度を数字で知ってしまったのだ。
「きつくなければ意味がない」に、公的な根拠はない
ナショナルジオグラフィック日本版は、会話ができる程度の強度の運動でも健康や持久力の向上が期待でき、脂肪を主なエネルギー源として使いやすい強度であることを、研究を引きながら紹介している。また厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、歩行程度からの中強度の身体活動を推奨の中心に置いており、「きつくなければ意味がない」という思い込みには公的な根拠がない、というのが現在地だ。
捨てるのは「頑張った感」への依存
ゆっくり走る練習が難しいのは、体ではなく心の問題だと私は見ている。ゾーン2には「手応え」がない。頑張り屋は疲労感を成果の証拠にしがちで、汗だくにならない練習をサボりだと感じてしまう。ゾーン2は、その「頑張った感」への依存を外すトレーニングでもある。手応えと成果は別物だと体で覚えると、仕事の頑張り方まで少し変わる——これは私の実感も込みの話。
では、なぜ今広まるのか。まず、数字が見えるようになった。ウェアラブルが「設計された楽」を可能にした。そこに、HYROXやマラソンのような市民競技の拡大が重なる。完走には派手な追い込みより、退屈な土台がいるからだ。そして何より、いまは疲労の時代だ。積極的休養の記事で書いたとおり、働く人の半分は慢性的に疲れている。ゾーン2は練習でありながら、強度的には「動く休み」と地続きだ。鍛えたいが消耗したくない人々の答えとして、これほど時代に合う方法はない。
週1回、20分。話せるペースで
- 週1回、会話できるペースで20〜30分動く。 走っても、早歩きでもいい。話せる強度なら成立している
- 時計がなければトークテスト。 ひとりなら、鼻歌が乱れないかで代用できる
- きつくなったら歩く。 歩きに落とすのは失敗ではなく、ゾーンに戻る操作。そう捉えると続く
運動習慣のない人や体調に不安のある人は、短時間・低強度から。無理は禁物だ。


